第一章 はじまり

第五話 覚醒

一瞬の静寂がその場を包んだ。
トゥルーは知った。
悟りとはいえないだろう。
ただ自分に気づいただけだ。
俺は何をしたかったのか。
俺の目的はなんだったのか。
そして、そのために何を犠牲にしたのか。

疑問はぐるぐると思考を繰り返し、しかし答えはそのたびに得られていた。
最初からわかっていたのだ!
トゥルーは本当の自分を知った。
いや、
知っていたことに気づいたのだ。
これこそが成長!さらに彼に力を与える!

不思議と体の痛みは感じなかった。

「意に介さず」とはこのことか。
感じなかったのではなく、感じてる暇などなかった。
すばらしい発見。世界の変化。

おもわず声を上げていたのだろう。歓喜の声を。
そのために、回復呪文を唱えていた冒険者がびっくりして呪文を失敗したらしい。
瀕死の彼は一瞬だけ、本当に死を予感した永遠の時間をすごした。

怖くはなかったが寂しいと感じた。

自分だけで生きてきた時間。長すぎた。
ほんの数秒の団結した時間。永遠に続いてほしいと願った。
そしてそれは願えばすぐに手に届くところにあった・・・
マーリン、親父・・・そして・・・

なにやら暖かく感じると、歓声が聞こえてきた。
なみいる強豪が剣を振り上げ勝どきを上げている。
ぼやけて見える景色にはドラコのベロが見える。

この重苦しい空気の中でさえすがすがしいと感じた。

回復呪文が成功し、トゥルーはまだ希望が残されていることを確信した。
起き上がることはまだ容易ではないが、微笑を返すことは何の苦労も必要としなかった。
頬を伝うものもあったが、屈強な戦士にはそれは必要ないものであるという、
頑固さは今回の経験では代わり映えしなかった。
すぐさま拭い去りたかったが、もっと大事なことがあった。
ドラコにはもはや力が感じられなかったのだ。
それでも親友をいたわるように愛撫しつづけるドラコを指差した。
その眼差しはさぞ真剣なことだったろう。
声はでないが必死で伝えたのが伝わったのだろうか、
ドラコの傷はすぐに癒えた。


しばらくして、トゥルーは起き上がることが出来るようになった。
また歓声が上がる。
声をかけてきた戦士がいた。先ほどの声をかけてくれた人物だろう。
同じ声だ。
「トゥルー・・・ようやくわかってくれたようだな」
返事をしようとしたが、
「何も言うな。顔を見ればわかるさ」
なにやら懐かしい感じがする人物だ。
近くで話してるだけで安らげる声だった。しかし見覚えはない。
彼は素性を明かしたくないのか、短気なのか、トゥルーに話す機会を与えなかった。
ただひとつ、「俺を・・・知ってる・・のか・・。?」という質問に関しては、
「俺の息子みたいなもんさ、俺はムーン。忘れんなよ」


すると、先行していた冒険者の怒号が聞こえてきた。
「また現れたぞ!」「一人じゃ太刀打ちできん!加勢してくれ!」

行かなければ!
立ち上がろうとするトゥルーに、ムーンは
「やれやれ・・・」
「けが人はおとなしく養生してろ。じゃぁな」
と、言い放ち馬を駆っていってしまった。。

トゥルーは行こうとしたが、それは簡単ではなかった。
幾度となくしりもちを繰り返し、
それでも行かなければならなかった。俺を助けてくれた人たちの為に。
この場所において他人を手助けすることは自殺行為である。
そんな中でトゥルーにチャンスを与えてくれた人物、支えてくれた人々。
それに少しでも答えたかった。支えたかった。

「お」これはいけるな・・・と思ったとき頭に響いてくる不思議な声が聞こえてきた。

「堕落した獣との戦いの武勇を称えアーティファクトを贈呈します」

なんだろう?

空耳だろう。周りにはもはや誰もいない。
体にも何も変化は無い。
また立ち上がろうとしたとき、
ドラコがバックパックに噛み付いた。そして引っ張った。
抵抗する術もなくまた床にしりもちをついた。かろうじて頭を激突することには耐えたが、
「ドラコ!!」
叫ばずにいられなかった。こいつはそういうやつなのだ。
だが、怒ったのは転ばされたからではない。
急いで行きたかったからだ。

それでもドラコはバッグを引っ張り続けた。

「ドラコ!!・・?」

ドラコの目が光っている。
ドラコのバーディングが光っている。
オレンジ色・・・朝日のように。
ドラコは全身でそれを反射していた。
まばゆい光を。

ぶちまけられた所有物の中でひときわ輝くそれは、

「チュニックオブファイアー」

古から伝わる伝説の炎の鎧。神の創作物。
さっきまでは存在しなかったものだ。

トゥルーは考える。
復讐とは何か?
同じ思いを味わった人々も俺と同じように復讐に心を駆り立てられているのだろうか?
では、その力を持たない人はどうするのだろうか?泣いているだけなのか?
誰かに助けを求めているだろうか?
犠牲になった人たちは助けを求めることすら出来ないのでは?

誰も泣かないようにするために俺に出来ることは・・・?

トゥルーはためらいもなくそれを着こなし、
体に力が溢れるのを押さえもせず、
湧きあがった力を元に立ち上がり、
強大な敵と戦友がまつ戦場へと駆け出した。





先ほど、今までの人生は無駄であったような表現があったが、
しかし勘違いはしないでいただきたい。
これまでの時間も無駄ではなかったのだ。
自分を追い込んで鍛え上げた肉体が彼を生きながらえさせ、
この場に存在させたのだから。

第六話 お使い


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